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■トラウマは出番のチャンスをうかがう?

 トラウマという言葉を耳にするようになったのは、ここ十数年くらいのことである。興味深いとはいえ、これほど真剣に聞いたことはなかった。どうやら、人の感情は無意識に潜むトラウマに左右されているらしいことがわかった。
 たとえば、子供時代に、親に対して、「もっと自分のことを見て欲しい」とか「かまって欲しい」と望んでも満足できなかったまま諦めてしまった過去があったとする。自分では「諦めることで解決した」ように思っていたり、成長とともに「別にどうでもいい」と感じていたりしても、意識されない心の世界でその欲求は繰り返されている。
 「トラウマは出番のチャンスをうかがっているのです。子供時代の満たされなかった欲求は、自分にとって大切な人との関係において無意識のうちに再現されるようになります。しかし、要求の仕方が本質的には子ども時代の再現でしかないために、自己主張ができず、相手にわかってもらえず一人悩み、相手に対し不満を持つようにもなるケースが多くあります。あるいは相手に強く要求し、相手を困惑させ苦しめていてもなかなか治まらない場合もあります。こういった情動系の混乱(認知的不協和)が脳内でストレスを作り“心の病”“精神的な苦痛”“不適切な人間関係”を作り出しているのです」と、井手先生は強調する。 

■脳のダメージを回復させる催眠療法!

 では、そのトラウマに私たちはどのように対処すればいいのか。先生の話を聞く限りでは、一度受けてしまえば簡単には逃れる術はないように思える。それほど、トラウマは深く、強く、ひどい場合は脳障害も含めて、体に刻み込まれているようだ。
 あるいは、脳のダメージを外科的に修復するにも、まだ十分とは言えない。薬も症状を緩和させるが、心理的問題を治していることにはならないし、副作用もでる。「しかし、心配しないでください。長期の心の病で脳にダメージを受けたとしても、心理的手法で脳細胞を回復させ治す方法はちゃんとあるのです」と先生。
 私たちの脳細胞は、ダメージを受けたり壊れたりしてしまっても、ストレスの原因を見つけて楽にしてやることで回復する。もっとも、回復の時間は個人差があるし、回復できない部位もある。
 「その場合は催眠状態を活用することで、効率よく早く壊れていない別の神経細胞とネットワークを作ってやればいいのです。よほど手遅れになっていない限り、治せる見込みは十分にあります。それが催眠療法です。心の病の修復・改善は“催眠”が一番効果的なのです」(井手先生)。
 心をストレスから解放し、脳のダメージに対処して、脳を少しずつ正常な状態に戻し、心の病や精神的苦痛を治すことはそう簡単なものではない。だが、井手先生は長く独自の催眠療法で治してきたというのである。

■マインド・サイエンス独自の催眠療法

 「心の病による、脳細胞のダメージや壊死、脳内ホルモンの調整、自律神経失調の調節などは、マインド・サイエンス独自の理論によって治療できます。トラウマなどの原因を排除して、心の状態を楽にしてやれば、ストレスも抑制され正常な精神状態に戻ります。催眠の理論とテクニックを個人の総合的特性に合わせてうまく活用すれば、健全な心身を取り戻せるのです」と、井手先生は断言する。ここに井手先生の存在意義があり、マインド・サイエンスが長く続けてきた研究の成果がある。
 「マインド・サイエンスで実施する催眠療法は、いわば脳科学に裏付けられた独自の理論で、退行催眠などの手法を使います。過去に形成されたトラウマを見いだすとともに、なぜ、そういった環境や出来事がその人にとって深い心の傷となり、今も影響を続けているのかという真の原因も追究します」(井手先生)。
 退行催眠によりしっかり思い出され意識化された過去の記憶と感情(トラウマ)は、催眠性トランス下での適切なカウンセリング(心理療法)により前頭葉で整理され、今後の人生に影響を及ぼさない単なる過去の出来事の記憶に変わるという。やっと示された解答に、記者は救われた思いがした。

■重要となる心理療法

 ここでマインド・サイエンスならではの独自の心理療法と催眠療法、双方を活用した技術を紹介したい。「マインド・サイエンスでは、催眠療法はもちろん、心理療法にも大きな比重を置いています。これらは脳の理性と感情に働きかける催眠テクニックなのです」(井手先生)。暗示は、深い催眠状態に導かれなくても十分に脳に働きかけることができる。そして、一般に催眠に入りにくい人にも十分な効果を上げることができるという。
 「総合的に考慮された心理療法は、トラウマなどにより形成された歪んだ環境適応を改め、本来のその人に適した正しい適応手段に改善させることができます。そのような指導によって、ストレスによる脳環境の悪化を生じさせないようにすれば、もう、心の病やPTSDなどの精神的苦痛などに悩むことは生涯なくなるのです」と、先生はにこやかに語った。
 現代の脳科学によって裏付けられる理論と技術を背景に、最適な催眠療法を実施すれば、意識と感情の正しい関係を取り戻し、無意識内の葛藤や混乱を調整し、あらゆる心の問題(病)を治すことができる。
 心理療法を含めて、先生の実践する催眠療法へと話題は移っていく。話はいよいよ佳境だ。