付 録
催眠術について
催眠術を学ぶことで、人の心の多様性を学ぶことができます。催眠術の体験をしたことがない人は、催眠術をかけられた人の心の状態が、信じがたい現象に映ることでしょう。テレビなどでやっているのはヤラセだよ、到底信じられないという印象を抱かれる方も多いと思います。催眠にかかりやすい人もいるかもしれませんが、みんながあんな風になるとは考えられないと思われる人も多いでしょう。
確かにヤラセ番組も存在することでしょう。でもすべてがそうではなく、催眠術下での多くの人たちの心の状態は、真実の反応なのです。もちろんテレビなどで行っている催眠現象は、出演者みんなが同じことをしている場合もあるでしょうが、ほとんどは、違った状態に導かれています。それが、個人差であり、心の多様性である個人の催眠感受性に合った状態を、うまく誘導して導き出しているのです。
催眠術とは、不思議な魔法のような“術”ではなく、心の状態を踏まえ体系づけられた“技術”なのです。私の所には、全国から催眠術を習いに多くの方々が来られていますが、実際に参加して体験して、初めて催眠状態の現実に触れ、驚かれています。けっして、まやかしでも、ヤラセでも、特殊な異常心理状態でもないのです。このように誘導すると人はこうなるといった、心の原理に沿った出来事なのです。催眠術を学びに来ている人達は、ショーマンになるためではなく、真摯に人の心の研究をしに来ている人がほとんどです。
催眠術をマスターするために書かれた本はたくさんありますが、それを読むことのみでマスターすることは、生まれつきの適性があったとしても、不可能といえるでしょう。もし可能な人がいたとすれば、実際に練習できる最適な複数の練習相手に、幸運にも恵まれた人でしょう。
なぜなら、書籍だけでは、現実に催眠現象を体験できないからです。実際にいろんな人に実践しながら、心の多様性や多彩な催眠現象に触れて、初めて実感し、学べるものです。催眠理論は心の原理であるだけに、体験を通じて、体感することでのみ実用可能な技術として、身についていくものです。
「催眠をかける人と催眠にかけられる人との間に信頼関係がなければ、催眠はかかりにくい」と一般的には言われていますが、催眠をかけるための要素として、信頼関係(ラポール)など必要がない場合もあります。
一般的にショー的にテレビなどで催眠術をかけている場合、しかも瞬間的にかけていく場合などは、やらせの場合は論外ですが、そうでない場合は、信頼関係(ラポール)を作る時間もないので、相手の中に持っている催眠というイメージ(観念)に沿って(催眠にかかったらこんな風になるんだろうという勝手な思い込みで、一種の不安や恐怖を与え、催眠にかかってしまうかもしれないと思わせるような雰囲気を漂わせる(威光暗示)方法が、催眠を成功させるのに楽なのです。
一般的な番組作りは前もって準備として、番組収録前に予備催眠を行い、相手を催眠にかかりやすくしておく場合がほとんどです。その予備催眠の中で、ラポールを作るというわけです。
しかしながら、私がTVで催眠術を披露する場合は、決して予備催眠などを行うようなことはしません。本当に相手との真剣勝負で、今まで出演してきました。ハッタリで言っているわけではありません。証人はいくらでもいます。
そんなことより何を言いたいかというと、催眠をよく知らない一般の視聴者は、私のやっている本物の催眠現象と、別の人がやっている、ヤラセの現象の区別がつかないだろうということです。それだけ番組の中にヤラセの部分も多く混じっていることもあります。
催眠を本当に使いこなせる人でないと、真偽を見分けるのは無理でしょう。それゆえに、催眠療法をおこなっている療法家の中には、TV等でショーの催眠を披露することを嫌っていたり、あれは催眠ではないとでも言わんばかりに否定されたり、自分たちの催眠は、科学的で学問としての催眠だなどと、お怒りの方が多くいらっしゃいます。また、気持ちもわかります。
しかし、そのような批判があったとしても、私は依頼を受ければTVだろうが、舞台だろうが、講演会場だろうがどこでも催眠術を披露します。
なぜなら、催眠術を使いこなせて初めて、心の世界をマスターしているといえるのです。催眠術を否定される方は、催眠術が出来ない方であり、出来たとしても幼稚なテクニックしか、マスター出来なかった方でしょう。催眠術を理解して使いこなせるということは、催眠療法において手法として使うことがなくても、心の原理としての根本理論は同じです。催眠療法においても本質の世界では素晴らしく役に立つことが見逃されているのが残念です。
自己催眠について
自己暗示をうまく活用すれば、あらゆる願望が実現するといわれます。確かに、無意識の中に繰り返し与えた暗示の概念は、その人の日常生活の行動や判断のもとになる思考に確実に反映されます。
自己暗示に関する書籍には、“潜在意識”という表現を使われていることが多いものですが、私は敢えてこの著書では、“無意識”と表現します。潜在意識と無意識では多少ニュアンスが違いますが、同じように理解していただいてかまいません。
時々私のところに「自己催眠の本を買って読み、その通りにしてみたが効果が出ないので、どこか間違っているのではないかと思い習いに来ました」と相談される方がいます。そもそも、人が抱く全ての欲望や願いが、自己暗示で叶うとしたら、それこそ大変なことでしょう。しかしながら、視点を変えれば、自己催眠は、その人に必要な願いはすべて必ず叶うともいって過言ではないのです。
こう書けば、過剰な期待を持たせてしまうかもしれません。しかし、自己催眠のやり方が間違っていなかったら、あらゆる願望が叶うものなのでしょうか。自己催眠のやり方が間違っているとすれば、それは、方法というよりも考え方だと言えます。
人の人生というものは、個人差があり多彩なものでしょう。そうして、遺伝的要因も絡んで、願いさえすれば、どのような生き方でも選択可能とはいえないのです。自己催眠は、正しい理解と方法で、最適でより効果的に、自分の人生に活用すべきです。
自己催眠による暗示を繰り返しても効果を実感できない場合は、方法の技術的な問題点がある場合も考えられますが、理論的問題が大きいといえます。
特に、精神機能に関することや、人生に関する課題においては、思うようにそう簡単には実現しません。
代表例としては、トラウマによって、無意識が拒絶するような心の病の症状に関する効果ではないでしょうか。もちろん、自己催眠を活用する価値はあります。しかし、それだけでは満足する効果を期待するには足らない面も多いのです。
自己催眠による夢や願望の実現にはルールがあり、そのルールを踏まえないと、どんな自己暗示も無意識の中に到達し、夢の実現はありえないのです。
そのルールとは、第一に、自分の無意識が叶えてくれる願いの可能性を、把握しているかということです。そのためには、自分とはどのような生き方をしなければいけない人間かという、正しい自己認識が必要になります。
第二に、願望の実現する時期によって、あなたの人生に価値をもたらすかは異なります。そのような“時”というものが絡んでいます。あなたが真の成功を望むなら、この“時”が来るまで願望を持続させて待てるかということです。そのためには無意識に与えた暗示に対する信念が必要になります。
努力して苦しみながら何かを築き上げているときに、宝くじが当たって人生が壊れることがよくあるようです。宝くじでどれほど高額の金額が当たろうとも、人は数年から十数年もあれば使い果たしてしまうものです。その間いい思いにのみ浸り、努力・向上することを怠っていたとすれば、その人生の貴重な時期と時間を失ってしまったことになります。その後、生きていく上での長い人生において、失った時間は取り返しがつかないものとなるのです。
人の人生とは、ある時期に、どのように過ごさなければいけないかという、課題を担っていることが多いものです。人生を理解し受け入れる哲学が必要になります。
自己催眠状態を作り、願望達成のイメージを頭に描き、無意識に送っているつもりでも、ただ願望を夢見る白日夢では、夢や願望は実現しません。白日夢は単なる現実逃避であり、内容的にも、現実不可能な夢想でしかないのです。
自己催眠のテクニックは簡単なもので、すぐにマスターできます。問題はその後の、暗示の入れ方だともいえるのです。自分で暗示を入れる時には、できるだけ手間をかけないで、短時間でトランス状態になることが理想でしょう。
私が教えているのは、その時間の短縮と、自己暗示の効果的な用い方と、成果を上げるための考えかた(理論)です。
自己催眠習得は、専門家に条件回路を作ってもらっておけば、活用が簡単で楽なのです。自己催眠は、自分の無意識に暗示を入れることが究極の目的なのですから、無意識が暗示を受け入れる状態を、簡単に作れるほど便利だということはわかると思います。
無意識に暗示が入りやすくなっている状態を、催眠性トランス(変性意識)状態と呼んでいますが、このトランス状態を少しでも短時間でつくり出せたら、大変便利でしょう。また、緊急の場合、トランス状態を作り出さなくても、即座に暗示を無意識に入れることができるように、条件づけをしておけば非常に楽だと思っています。
私の所に、自己催眠を習いに来る方々には、このような条件づけをして、いろんな状況で瞬時に、自己催眠を役立たせることができるようにしています。